大動脈弁狭窄症とは?
心臓には4つの部屋がありますが、それぞれの部屋の間に、血液の逆流を防止するために「心臓弁膜」が存在しています。
その一つである「大動脈弁」が加齢などの影響で固くなり、開きにくくなった状態が「大動脈弁狭窄症」です。「大動脈弁狭窄症」は、進行すると心不全、狭心症、失神発作の原因となります。
さらに、突然死のリスクが高まります。


TAVI(タビ、経カテーテル的大動脈弁留置術)とは?
大動脈弁狭窄症に対して効果的な薬物治療はなく、新しい弁を置き換える「弁置換術」が根治治療をなります。「弁置換術」には以下の2種類の方法があります。
- 開胸手術で行う方法(SAVR)
- カテーテルで行う方法(TAVI)
そのうちTAVI(タビ)は、開胸手術を行わずにカテーテルを使用して新しい人工弁を大動脈に留置する治療法です。従来の開胸手術に比べ、体への負担が軽く、回復が早いのが特長です。この治療は主に高齢者や、開胸手術が難しい患者様に適しています。


TAVIのメリット
身体への負担が少ない
外科的手術と比較して、胸を開いて心臓を停止させる必要がないため、体への負担が少なくなります。
術後の社会復帰が早い
順調に経過すれば、1週間程度で退院が可能です(ただし、病状や体調により入院期間が延長される場合もあります)。
傷が小さい
足の付け根からカテーテルを挿入するため、1cm未満の傷で治療を行うことができます。
治療の流れ

鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、太ももの付け根の1cm弱の小さな穴から大腿動脈にいれて、心臓まで運びます。

・バルーン拡張型の場合、生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーン(ふうせん)を膨らませ、生体弁を広げ、留置します。
・自己拡張型の場合、徐々に生体弁を拡張させ、留置します。

生体弁を留置した後は、カテーテルを抜き取ります。

生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
治療の対象となる方
以下の条件に当てはまる方が治療の対象となる可能性があります。
重症大動脈弁狭窄症の方
高齢や依存疾患のため、開胸手術のリスクが高い方
術前検査により安全にTAVI治療が可能であると判断された方
「息切れ」や「むくみ」といった症状がある方、または採血でのBNP値の上昇、レントゲンや心電図に異常がある方は、ぜひご相談ください。TAVIに限らず、心臓病のトータルコーディネートを当科にお任せください。
よくある質問
費用はどのくらいかかりますか?
TAVIは健康保険の適用対象であり、高額療養費制度の利用により自己負担額を減らすことが可能です。
高額療養費制度とは?
1か月に支払った医療費が高額になった場合、定められた上限額を超えた金額が払い戻される制度です。上限額は、個人や世帯の所得に応じて決まります。詳しくは、加入されている公的医療保険組合や厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。
高額療養費制度を利用される皆さまへ |厚生労働省 (mhlw.go.jp)
※入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。
どのような合併症がありますか?
TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)は医療行為であるため、いくつかの合併症リスクが伴います。リスクを最小限に抑えるよう努めておりますが、以下の合併症についてご理解ください。
1. 心破裂・弁輪破裂(発生率: 約1%未満)
手術中に心臓の壁や弁の支えである「弁輪」が損傷し、破裂を引き起こす可能性があります。この場合、緊急の外科的対応が必要になります。
2. 冠動脈閉塞(発生率: 約1%未満)
人工弁が冠動脈を閉塞し、重症の心筋梗塞を引き起こすリスクがあります。発生時には直ちに再開通の処置を行います。
3. 大動脈解離(発生率: 約1%)
カテーテル挿入や人工弁設置の過程で大動脈に負担がかかり、大動脈が裂ける「大動脈解離」が発生する場合があります。発生時には緊急の外科的対応が必要です。
4. 脳卒中(発生率: 約1%)
血栓や手術中に使用する薬剤により、脳卒中が起きるリスクがあります。
5. 不整脈(発生率: 約5~10%)
一時的に心臓のリズムが不規則になる不整脈が発生することがあります。重度の場合はペースメーカーの装着が必要です。
6. 血管合併症(発生率: 約5~10%)
カテーテル挿入時に血管が損傷し、出血や血腫が生じる場合があります。多くは自然治癒しますが、まれに外科的治療が必要です。
7. 腎機能障害・造影剤アレルギー(発生率: 腎機能障害 2~5%、造影剤アレルギー 1~2%)
造影剤の使用が腎臓に負担をかけ、腎機能が悪化することがあります。また、造影剤にアレルギー反応を示す方もおり、皮疹や呼吸困難が生じる場合があります。
当院のリスク管理とサポート体制
当院では、合併症のリスクを最小限に抑えるために事前の精密検査を実施し、適切なアプローチで治療を提供いたします。また、万が一の合併症に備え、迅速な対応ができる体制を整えています。手術後も丁寧なフォローアップを行いますので、ご安心ください。
治療による痛みはどの程度ですか?
手術中に苦痛を感じることがないよう、全身麻酔下で治療を行います(2024年現在)。術後にはカテーテル挿入部の疼痛や全身麻酔に伴う喉の違和感が残ることがありますが、多くは数日で治まります。
治療後にMRI検査は受けることができますか?
留置直後からMRI検査を受けることが可能です。
治療後に抗血栓薬(血をサラサラにする薬)は必要ですか?
担当医が必要と判断した場合、抗血栓薬の投与を行います。