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大腸がんの画像

大腸がん

大腸がんについて

大腸は食物の消化吸収を行う消化管の最後の部位で、右下腹部から始まり、右上腹部から左上腹部、左下腹部へとぐるっと一周回って、骨盤内を通過して肛門に至ります。口から取った食物は小腸で栄養分が吸収され、大腸では液状の腸管内容物から水分が吸収され、最終的に、固形の便として排泄されます。
大腸がんは粘膜(大腸の内側)から発生し、まさに根を張るように、少しずつ大腸の壁深くへと進展します。最初は「腺腫」という良性の腫瘍(ポリープ)として発生し、時間の経過とともに、ポリープが悪性化して大腸がんに進展すると考えられています。大腸内視鏡検査で「腺腫」を発見した場合、その時点で「腺腫」を切除することで、将来的に起こりうる大腸がんを予防できることになります。大腸がんは進行するにつれて、リンパ管に入り込んでリンパ節転移を起こしたり、血管を巻き込んで肝転移や肺転移などの遠隔転移を起こしたりすることがあります。このような進行した状態で発見された場合でも、手術、化学療法や放射線治療を組み合わせることで、完治できる場合が増えてきました。
「腺腫」や早期の大腸がんではほとんど自覚症状がありません。進行した大腸がんでは、血便、便通異常(便秘や下痢)、腹痛、腹部膨満、腹部のしこり、貧血などがよく見られます。特に、血便は直腸がんやS状結腸がんに起こりやすい症状ですが、痔核の症状に似ているため、痔核だろうとの自己判断は禁物です。また、便に混じった微量の血液を検出する便潜血検査は、大腸がんの早期発見のために健康診断でも広く行われています。



担当する医師

検査について

1. 血液検査:腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)

大腸がんで高くなることがある腫瘍マーカーです。より進行した大腸がんで異常値を示すことが多いですが、早期がんで高値になることは稀です。基準値を超えた場合には精査することが薦められます。



2. 画像検査:CT/MRI/PET

CTやMRIで、大腸がんの広がり(浸潤)を評価し、周囲のリンパ節や肝・肺への転移の有無を判定します。さらに、PETによる全身検索で遠隔転移の状況を評価する場合もあります。



3. 組織検査:大腸内視鏡検査(組織生検)

大腸内視鏡検査にて、病巣を直接観察し、まだ良性の段階であるか、あるいはがんになっているか、がんになっている場合はその進行度などを評価します。疑わしい病変が見つかった場合は、病巣部から小さな組織を採取する方法(組織生検)によって、がん細胞の有無を調べて、病気の診断を確定させます。

手術について

1.内視鏡治療

内視鏡を用いて大腸がんを切除する方法は、がんがリンパ節に転移しておらず、技術的に切除可能な大きさと部位にある場合に適応されます。具体的には、がんの深さが粘膜下層への広がりが軽度で1mm以内であることが求められます。この治療法は開腹手術に比べて体への負担が少なく、安全性も高いですが、出血や穿孔といったリスクもあります。入院の必要性は施設によって異なるため、事前の確認が重要です。切除後は病理検査を行い、がんの組織型や広がりの程度を確認します。その結果、再発やリンパ節転移のリスクが高いと判断された場合は、追加の手術が必要となることがあります。



1.切除の方法

切除の方法には、内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があり、病変の大きさや部位、肉眼で見た形(肉眼型)、予測されるがんの広がりの程度などによって治療方法が決まります。



1.内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)

主に、キノコのような形に盛り上がった茎がある病変に対して行われます。内視鏡の先端からスネアと呼ばれる輪状の細いワイヤーを出し、スネアを茎に掛けて病変を絞めつけて、高周波電流で焼き切ります。茎のない、1cmまでの小さなポリープに対しては、高周波電流を用いないで、そのままスネアで切り取るコールドポリペクトミーという方法が主に行われます。



2.内視鏡的粘膜切除術(EMR)

病変に茎がなく、盛り上がりがなだらかな場合は、スネアが掛けにくいため、病変の下に生理食塩水などを注入してから、病変の周囲の正常な粘膜を含めて切り取ります(図1)。


図1)内視鏡的粘膜切除術(EMR)




3.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

主にEMRで切除が困難な大きな病変に対しての治療法です(図2)。がんを浮きあがらせるために、病変の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸ナトリウムなどを注入してから、病変の周りを高周波ナイフで徐々に切開し、はぎ取る方法です。EMRと比較すると、治療に時間がかかります。また、出血や穿孔などのリスクも少し高くなります。


図2)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)




2.内視鏡的治療の合併症

治療後に、出血や大腸に穴が開く穿孔が起こることがあります。治療中の出血は少量であることがほとんどです。
出血が起こると、血便が出ることがあります。穿孔が起こったときには、腹痛や発熱などの症状が出てきます。そのほかにも、治療後に何らかの体調の変化を感じたときには、医師や看護師に伝えることが必要です。



2.外科手術

大腸がん病変と周辺のリンパ節とを一緒に切除して、腸管の断端同士をつなぐ(吻合する)大腸切除術を行います。大腸がんの発生した部位により、具体的な術式は、回盲部切除、結腸右半切除、横行結腸切除、結腸左半切除、S状結腸切除、直腸切除などと、呼び名はかわりますが、手術の基本原則はすべて同じです。肛門の近傍に発生した直腸がんの場合で、肛門の温存が難しい場合は、直腸切断術(永久肛門造設術)と呼ばれます。
手術の行い方には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術がありますが、当科では緊急手術ではない場合は、病変の発生部位に関係なく、ロボット支援手術を積極的に行っています。ロボット専用の器具は、人間の手以上によく曲がり(多関節機能)、手振れしない上に、ロボット搭載の3次元フルハイビジョン画像で、微細な解剖まで認識できるようになり、狭くて深い骨盤の中でも、より正確で繊細な手術が可能となりました。特に、肛門に近い直腸がんに対するロボット手術は極めて有効で、より多くの肛門温存手術が可能となり、患者さんのご希望に添える治療が出来るようになってきています。
進行直腸がんに対しては、術前治療(放射線治療)を行っています。局所再発を減少させることが主目的ですが、腫瘍を縮小させることで、より多くの肛門温存手術が可能となります。通常、治療効果の高い長期照射 (IMRT 1.8Gy x 28回、合計50.4Gy) を行います。また、諸事情に応じて、短期照射 (5Gy x 5回、合計25Gy) も考慮します。さらに、直腸がんの進行状況によっては、全身化学療法→化学放射線治療を選択し、病状を制御したのちに、ロボット手術を行うこともあります。
直腸指診で肛門縁から3cm(示指先端1関節分ほど)の腫瘍でも、術前治療とロボット手術を組み合わせることで、がんの遺残なく、すなわち腫瘍学的な安全性を担保しつつ、肛門温存手術は可能となります。
術前治療の後は、原則ロボット手術を行いますが、術前治療が極めて効果的で、病変が画像上消失した場合は、手術を行わずに、経過観察することも治療の選択肢の一つになります(Watch and wait)。これは、非手術療法であり、究極の肛門温存治療と言えます。

薬物療法について

  1. 手術後の補助治療
  2. 転移・再発に対する治療


外科的切除が難しい大腸がんの再発に対する抗がん剤治療は、がんを完治させるほどの効果は残念ながらまだありませんが、治療後の生存期間は年々長くなっており、やがては長期間にわたってがんの進行を抑えることが可能になることが期待されます。

放射線治療について

直腸がんには、術前に放射線治療を行うことで、術後の局所再発率を軽減することが証明されており、当科では積極的に術前放射線治療を実施しています。また症状緩和のために緩和的放射線治療が用いられます。

大腸がん治療後の定期検査

大腸がんの手術を受けたあとは定期検査のための外来通院が必要になります。肉眼的にがんの取り残しがない根治的な手術であっても、術後経過中に再発が起こる場合があり、再発を早期に発見できれば再発に対する治療を早期に開始できると考えています。
通常、血液検査に加えてCTや腹部超音波検査を定期的に行います。外来通院の頻度は、大腸がんの進行度(ステージ)によって異なりますが、3か月から6か月に一回程度の受診が一般的です。手術後3年以内に再発が判明することが多く、手術後5年間は外来通院していただくことが望ましいです。

大腸がんの再発とその治療

大腸がんの再発として最も多いのは肝転移再発です。直腸がんの場合には局所再発がこれに続き、肺転移も比較的多く発生します。結腸がんでは、肝転移以外では肺転移がときに発生し、腹腔内にがん細胞が種をまかれたように発生してくる腹膜播腫が発生することがあります。
肝転移や肺転移、局所再発では、再度の外科的切除でがん病巣全部を取り除ける場合には外科的切除が第一選択の治療となります。外科的切除が困難な再発病巣に対しては抗がん剤を用いての全身化学療法や免疫療法、再発部位によっては、放射線照射も考慮します。抗がん剤治療・免疫療法や放射線治療によって、再発病巣が縮小した場合は、外科的切除を行うこともあります。このように、大腸がんの再発に対しては、手術、抗がん剤治療・免疫療法、放射線療法を上手に組み合わせて集学的に治療していくことで、根治を目指します。

診療実績

内科領域診療実績

2020 2021 2022 2023 2024
上部内視鏡検査 6,607 7,084 7,027 7,283 8,088
下部内視鏡検査 2,701 2,604 2,578 2,892 3,056
内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)、粘膜切除術(EMR) 828 883 915 1,062 1,202
ポリペクトミー(上部・下部) 382 624 727 861 941
EMR(上部) 0 3 1 7 6
EMR(下部) 446 256 187 194 255
内視鏡的消化管早期悪性腫瘍粘膜下層剥離術(ESD) 93 111 115 120 120
食道 8 15 13 7 9
38 43 46 53 63
十二指腸 1 1 2 5 2
大腸 46 52 54 55 46
経口内視鏡的筋層切開術(POEM) 0 0 3 0 0
腹腔鏡内視鏡合同胃局所切除術(LECS) 4 4 1 0 0
内視鏡的消化管止血術 106 173 215 164 195
上部 74 119 147 82 128
下部 32 54 68 82 67
内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL) 24 27 27 16 24
内視鏡的食道・胃静脈瘤硬化療法(EIS) 6 6 1 2 0
内視鏡的消化管バルーン拡張術(EBD) 41 48 33 38 33
内視鏡的消化管異物除去術 20 29 25 28 34
内視鏡的消化管ステント留置術 26 22 24 50 40
食道 5 4 0 5 3
胃・十二指腸 2 5 4 11 12
大腸 19 13 20 34 25
胃瘻関連処置 80 79 86 108 91
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG造設) 56 57 60 64 52
胃瘻交換術 24 22 26 44 39
内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP) 218 212 317 348 323
小腸内視鏡下ERCP(DB-ERCP) 3 4 5 6 14
内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST) 113 82 118 171 172
内視鏡的胆管結石除去術 85 93 104 154 125
内視鏡的胆管ドレナージ術(ERBD、ENBD、ENGBD) 98 87 175 140 102
内視鏡的胆管ステント留置術 10 16 14 19 30
内視鏡的膵管ステント留置術 5 3 8 15 10
胆道鏡検査(POCS) 0 0 1 0 4
膵管鏡検査(POPS) 0 0 0 0 0
超音波内視鏡検査(EUS) 49 76 83 272 320
超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA) 18 16 23 59 81
超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ術関連 1 6 3 2 10
超音波内視鏡下胆道ドレナージ術関連 5 3 3 7 12
経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTCD) 10 5 12 2 8
経皮経肝胆嚢ドレナージ術(PTGBD)、穿刺吸引術(PTGBA) 13 9 8 10 3
経皮経肝膿瘍ドレナージ術(PTAD) 0 0 0 0 7
カプセル内視鏡検査 1 8 4 1 3
小腸ダブルバルーン内視鏡検査 11 3 4 2 6
内視鏡的イレウス管留置術 11 8 13 17 27
上部 9 7 12 13 25
下部 2 1 1 4 2
超音波下肝生検(肝腫瘍生検含む) 8 32 19 14 13
ラジオ波焼灼療法(RFA) 1 9 2 0 1
肝動脈塞栓術(TACE) 0 0 0 0 0



外科領域診療実績

手術症例数 2021年 2022年 2023年
全手術総数 1,101 1,167 1,033
鏡視下手術 516 587 545
全身麻酔手術 974 1,061 941
緊急手術 237 280 228

大腸がん 2021年 2022年 2023年
悪性全症例 127 138 149
開腹 27 39 41
低侵襲手術 鏡視下 100 99 64
内視鏡支援手術ロボット - - 44

がん登録件数